Carver CS, Scheier MF, Segerstrom SC. Optimism. Clinical Psychology Review, Volume 30, Issue 7, 2010, Pages 879-889
報告資料(ppt)
この会ではずいぶん前に、Optimism=楽観主義について取り上げましたが、かなり時間が経っていいて、メンバーも新しくなっています。最近のレビュー文献の紹介ということもあり、大変有意義な議論の時間を持てました。
そのときも、楽観主義そのものの価値=それがもろ手を挙げていいことなのか、逆境や困難にあっても、人によってはそれに目をつぶり、いいことばかりしか起こらないと思うことはおめでたすぎないかという議論をしたのでした。本人さえそれでいいと思えばそれでいいのかということです。
今回、楽観主義についての議論での1つの結論は、定義と測定とその実用性においてまだ十分ではないのではないかということです。楽観主義が、期待価値理論をもとに、価値=いいことが、期待=起こりやすいという信念を持つことと定義されるとありました。ごくシンプルであり、そのように思えていることを、最もよく使われているというLOT(Life Orientation Test)では、それをそのまま聞いているだけです。
それに対して、セリグマンの、いいこととわるいことがどうして起こるのかというその原因を考える測定方法のほうが内容的にはより具体的です。しかし、セリグマンの尺度も、パーティのホストやダンスの誘いの経験などの項目を見ると、その内容妥当性に疑問を感じる点もあります。
そして、何よりも、わるいことをそれと認めつついいこともあると見直す、Sense of coherenceやposttraumatic growthのような、両価値的で、それをもとにした成長の概念を含んでいなくていいのかということです。
それに関連して、すでに議論があるという楽観性と悲観性が1次元で対極にあるのか、2次元で独立性があるのかについてもっと理解する必要があるでしょう。ずいぶん前の報告では、2次元性を支持する論文の紹介だったように思い出されました(記憶は不確かです)。逆境における問題を受け止め、その上で意味を見出すという力を捉えきれていないということです。ポジティブ感情とネガティブ感情は独立して併存できることに意味があるという研究も並行して進んでいます。やはり2次元性を前提に、それを巧みに柔軟にいかす力の測定を目指すべきではないかということです。たまたま、LOTについて検索して見つけた、防衛的悲観主義などの論文がそれに近いのかもしれません(ちらっとしか見てません)。
やはり、この会で、これまで見てきたSOCやPTGとの関係がわかるような、それらの理解がさらに進むような定義に基づくキレのある尺度がつくれるかどうかだと思います。よりダイナミックな、人間の成長と限界を把握できるようなものです。
私自身は、ポジティブ感情とネガティブ感情が並存できることこそ、人間の強さであり、それも人間の助け合い、社会的信頼によるのだという仮説を支持したいと思いましたし、それを検証したいという思いが強くなりました。
私自身は、ポジティブ感情とネガティブ感情が並存できることこそ、人間の強さであり、それも人間の助け合い、社会的信頼によるのだという仮説を支持したいと思いましたし、それを検証したいという思いが強くなりました。
また、このPP会では、単にポジティブ心理学について知るだけでなく、保健医療領域でそれを活用できないかということを常に問題意識として持っています。したがって、楽観主義も、それを測定することが、健康問題の予測に使えるかどうか、そうであれば、プログラムなどを開発すれば変えられるかということが興味関心となります。介入研究もすでにあるようですが、LOTを尺度としているとすれば、やや疑問も残るので、これからという感じです。なぜなら、病気や障害を持つ人にただ、いいことばかりがこれから起こると思ってもらうことでいいのかと単純に思うからです。
参加者の方、コメントありましたらお願いします。
参加者じゃないのですが、横から失礼します。MLにも登録してもらっております、平原憲道(旧東工大)です。なかなか研究会に行けません。次回こそは、と思うのですが。
返信削除optimismに関して、統合的かつ医療保健分野での応用に耐えうるしっかりとした因子構造をおさえた尺度が未開発である、という指摘に賛同します。私もoptimismが気になり始めてもう随分になりますし、博論でもその信頼性からLOT-Rを用いましたが、不十分だという気持ちはずっと持っております。(ただ、D論のときは、テーマがより「リスク認知」に偏っていたので、optimismへの議論はそれほど突っ込んでいません。)
日本でも多次元を前提にした尺度が関西方面などでされようとしていましたが、成功しているとはあまり思えません。何より、この分野でのキングみたいな感のあるSeligmanたちですら、中々がしっとしたものができていません(文化差もありますしね)。我々が日常的に「optimismだぜぇ」と思うのと、何か乖離があるのですよね、尺度に。intuitiveでないと感じる項目も少なくない。
でも、幅広く網を広げながらやるしかないですよね。ある研究者たちは網を遠くに広く投げる、また一方のグループは、psychometricに細かく尺度化を検討する。最近は精緻化に目を奪われすぎて、いったん、ちょっと森を見ようというトレンドも必要かも知れません。
例えば、医療保健や心理学をちょっと離れて、ビジネス分野に網を広げるのも一考でしょう。例を挙げれば、起業家と呼ばれる連中のoptimismは一般的に強いです。ただ、その多くがリスク認知におけるそれであるとも思えそう。で、optimismが過ぎて定期検診を受けないでいたら、がんが発見される。でも、治るぜと思うので、手術をはじめcomplianceが高く、それは治療にプラスに働く。でも、また無謀なoptimismが復活すれば、再発の危険性が高まる...。でも、免疫機能が...と、どのoptimismがどう関与しているのか複雑ですが、DVとしての健康指標やcompliance率などに跳ね返るような気がします。
そういう、人工的なシナリオではなく、naturalistic/自然な文脈でoptimismが発露する環境への観察・調査に網を広げることも、実験室の中で精緻に尺度開発というのと並行していけば、今の、ちょっと天上に頭が引っかかっているようなoptimism議論に風を送れるのかも知れませんね。
今後も非常にホットな領域だと思います。プッシュしてよいと思いますね。
それと、次回の研究会でのテーマに触りますが、下記のURLのサイトはもうご存知でしょうか?英語ですけど、非常に上手に、「mindfulnessスタイル」を一般向けに解説しています。可愛い動画です。時間があれば、ぜひ一度。
http://jayuhdinger.com/category/chapters/
平原憲道, Ph.D.
武蔵野大仏教文化研究所 & et al.
optimismだけなぜこんなに盛り上がるのか、という話もありましたが、個人的には大変に気になっていた概念で、多分中山先生ほか参加者の方もそうであって、会を持ったことで、その気持ち同士がぶつかって、(気持ちのなかで)盛り上がったのだと思います。激論、という訳でなく、静かに、です。いろいろ調べているなかで、沢宮先生は尺度の開発をされていたり、本邦のoptimism研究の第一人者のひとりでいらっしゃったようで、ご欠席で残念でした。次回のマインドフルネスについても実際に介入研究されているというお話で、緩やかな会ですが、密かにご参加を期待しています。
返信削除私の個人的感想は、ひっそりブログに挙げましたのでご報告まで。
コメントありがとうございます。またじっくりやりたいですね。
返信削除戸ヶ里さんのブログには、ずいぶんと丁寧にまとめられていて、とても役に立つと思いました。
みなさん。是非ご覧ください。
sense of coherence (SOC) 研究日記